大学院人間社会科学研究科 清末 有紀さん

取材日:2022年12月12日

人間社会科学研究科の清末有紀さんにお話を伺いました。

清末さんは、令和3年4月に広島大学の人間社会科学研究科博士課程後期に進学し、次世代フェローシップに採択されています。令和3年度、令和4年度については、上位フェローにも選出されています。

今回は、清末さんに、博士課程後期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)

【博士課程後期の研究内容について】

■清末さんの研究内容について教えてください!

私は「管理職を目指す女性が周囲からどのような評価を受けるのか」についての研究を行っています。具体的には、反ステレオタイプ的に振る舞うことによって受ける社会的、経済的な罰と定義されている「バックラッシュ効果」という現象に着目しています。
管理職を目指す女性は、リーダーに必要とされる作動性(自己主張ができたり、キャリア志向であるというような特徴)を示さなければリーダーにふさわしいとみなされないのですが、女性が作動性を示すと女性のステレオタイプ(共同性:温かい、親切であるなどの特徴)に反しているとみなされ、好意度が低くなったり、雇用したくないと思われてしまいます。
バックラッシュ効果の研究は主に海外で実証されているのですが、私はこれが日本でも再現されるかどうかを検証しました。その結果、海外と同様のシナリオを用いた調査では、日本における管理職を目指す女性に対するバックラッシュ効果は見られないということがわかってきました。

日本はジェンダーギャップが他国と比べて大きいイメージだったので、日本ではバックラッシュ効果が見られないという結果に驚きました。

そうですね。ただ、海外の先行研究と同様のシナリオによる調査ではバックラッシュ効果が見られませんでしたが、もしかしたら条件を変えて検証を行うことで、バックラッシュ効果が見られるかもしれません。さらに検証が必要だと考えています。

清末さんがこの研究テーマを選んだきっかけを教えてください。

もともと卒業論文のテーマを考える際に、「人は脅威を感じるとどのような反応をするのか」ということに対する興味と、ジェンダーについての関心がありました。そのため、卒業論文では「男性上司は優秀な女性部下がいた場合にどのような脅威を感じて、どのような評価を行うのか」という研究を行いました。その後、指導教員と相談するなかで、「管理職を目指す女性が周囲の人物からどのような評価を受けるか」という現在のテーマにまとまりました。

■清末さんの研究の目指すところを教えてください。

日本でも、女性管理職の数が少なく、女性自身の昇進意欲も低い、ということがよく言われています。現在の日本で管理職を目指している・昇進意欲がある・働く意欲がある女性がどのような状況に置かれているのか、そしてなぜ日本では女性管理職が増えないのかという点について理解を深めていける研究にしたいと考えています。

研究室で研究に取り組まれている様子

インタビューで説明のあった、バックラッシュ効果の研究結果をまとめた表。
海外の先行研究では男性と女性でそれぞれ有意な差が見られたのに対して、清末さんが日本で行った研究では有意な差が見られなかった。
・好意度:刺激人物に対して好感を持ったか
・雇用可能性:刺激人物を採用したいと思ったか
引用文献:
Rudman, L. A., Moss-Racusin, C. A., Phelan, J. E., & Nauts, S. (2012). Status incongruity and backlash effects: Defending the gender hierarchy motivates prejudice against female leaders. Journal of Experimental Social Psychology, 48, 165-179. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2011.10.008

【博士課程後期への進学について】

■これまで文系の学生が博士課程後期まで進学するイメージがあまりなかったのですが、清末さんが進学を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

私自身は学部生の頃から研究をしたいという想いが強かったので、その頃から大学院に進学することを意識していました。何か大きなきっかけがあったわけではないのですが、もともと、自分が気になっていることを自分で調べたいという性格だったことが大きいのだと思います。

■博士課程後期への進学にあたって不安に感じることはありましたか?

やはり一番不安に感じていたのは金銭面です。幸いなことに現在は次世代フェローシップの支援を受けることができていますが、もし採用されなかったら研究費や生活費を自身で捻出しないといけなかったので、そこは不安に感じていました。

学部の友人で博士課程後期に進学した人は他にもいますか?

いえ、周りのほとんどは就職しています。教育学部の第五類(人間形成基礎系)心理学系コースには約30名の同期がいたのですが、そのうち博士課程後期に進学したのは私を含めて2名です。

博士課程後期の生活について】  

■毎日のスケジュールについて教えてください。

毎週のスケジュールとして決まっているのは、火曜日の午後はゼミの時間で、研究室の学生の研究の状況を聞いたり、先行研究を読んで発表したりしています。
また、水曜日の夕方と木曜日の午前中には、TA(ティーチング・アシスタント)のお仕事をしています。これらの決まったスケジュール以外は基本的にすべて研究に充てています。
また、時期によっては非常勤講師としてのお仕事をすることもありますし、土曜日には他の先生と最新の研究論文を持ち寄って発表し合うことも行っています。
その他に、要望があった際には所属しているゼミ生の相談を受けたり、サポートなども行っています。

■私自身も、研究室の博士課程後期の先輩によく質問に行くので、いつもすごくありがたいなと感じています。他大学の先生と最新の研究論文を持ち寄って発表し合うというのは、どのようにして始められた活動なんですか?

指導教員に誘っていただいたことがきっかけです。具体的には、指導教員、他大学の先生と私の3人で、それぞれ興味のある海外の最新の論文を2~3本ずつ持ち寄って発表し合う自主ゼミのような集まりです。自分が調べないような論文について知ることができたり、新しい分析方法を学んだりすることができています。

清末さんは、他大学の先生との共同研究も行っているとお伺いしましたが、詳しくお聞かせいただけますか?

もともと指導教員が他大学の先生と一緒に行っていた共同研究の内容を論文にまとめるにあたり、指導教員から声をかけて頂き、参加させていただくことになりました。私は主にデータの収集や整理などを担当していました。

また、先ほどお話しした他大学の先生と研究論文を持ち寄って発表し合う会をきっかけとして行っている共同研究もあります。こちらの共同研究では、会の中で発表された研究内容をもとに、新しい研究のアイディアを一緒に練ったり、データの解釈について一緒に議論を行ったりしています。

■積極的に色々なことに取り組まれているのですね。研究活動に行き詰った時やモチベーションが下がったと感じるときは、どのように解消していますか?

少し集中力が下がったなと感じた時は、近くを散歩して気分転換しています。研究自体に行き詰まりを感じた時は、指導教員に相談したり話し合ったりすることで、問題を明確化し、優先順位をつけて対応するようにしています。今何をすべきかを一度紙に書き出してみるのもいいと思います。
研究は全てが上手くいくわけではないので、中には、思い詰めてしまい、メンタルの調子を崩してしまう学生もいます。研究の進捗が思うようにいかないときに、どうやって自分のメンタルを保つか、方法を探っておくことは大事だと思います。

■清末さんは何か趣味はありますか。

読書が好きです。自分の研究分野に関する本だけでなく、他分野の本を読むことも楽しいです。また、散歩中にラジオ感覚でポッドキャストを聴いたり、NetflixやYouTubeを観ることもあります。コロナ前までは、ライブに行ったり、旅行に行ったりすることも好きだったのですが、現在は自粛しています。

次世代フェローシップについて

次世代フェローシップについてどのように知りましたか?

博士課程後期1年生の時に、案内のメールを頂いて知りました。

先に募集が始まったリサーチフェローシップは対象となる分野が限定されていたのですが、次世代フェローシップはどの分野からでも応募できるようでしたので、すぐに応募を決めました。私は学術振興会の特別研究員にも応募したのですが、「応募できるものにはとりあえず応募してみる」という積極的な姿勢が大事だと思います。

■清末さんは2021年度および2022年度の上位フェローにも選抜され、60万円の研究費が配分されています。研究費はどのようなことに使われていますか?

主にデータ収集の費用に使わせていただいています。具体的には、データは主にクラウドソーシングを利用して収集しており、協力してくれた人への謝礼というイメージです。私が普段行っている調査は、一人あたりの単価が200円程度で済むので、600名規模の調査でも10万円程度と、比較的安価な研究費で実施することができます。しかし、同じ心理学分野でも研究によってはもう少し複雑な課題に取組んでもらう場合や、作業中の脳波のデータを取得する実験を行うような場合もあり、もっと多くの研究費が必要になることもあります。

また、学会参加のための費用にも使わせていただいております。私が参加をする学会は主に東京や大阪で行われることが多く、移動費・宿泊費・参加費などが必要になります。学会の開催日数にもよりますが、一つの学会に参加するごとに4〜5万円程度かかります。2023年は国際学会に参加する予定もあり、海外に行くことになるため、国内学会に参加する以上の費用が必要になると思います。

■60万円の研究費は清末さんにとって十分な金額ですか?

たくさん調査を行って、自分の研究をどんどん先に進めたい想いがあるので、研究費はあればあるだけありがたいです。ただ、私の場合は、1回の調査が比較的安価に済むので、60万円の研究費があれば、多くの調査を行うことができて、とてもありがたいです。加えて、学会に参加する際の費用面で非常に助かっています。研究費があることで、参加したい学会に費用面で悩むことなく参加することができるので、とてもありがたいです。

■金銭的な支援の他に、こういうサポートがあったらいいなと思うことはありますか?

英語を話す機会をもっと増やせればなと感じています。リーディングの能力は日常的に海外の論文を読むことで鍛えられますが、スピーキングについては、なかなか普段練習する機会がなく、いざというときに咄嗟に言葉が出てこずうまく話せないことがあります。次世代フェローシップの取組の中で、スピーキングの機会を作っていただけるのであれば、ありがたいです。

【将来のキャリアパスについて】

■将来的にはどのようなキャリアパスを目指していますか?

現状は、アカデミアに残って現在のテーマに関連した研究を行いたいと考えています。
しかし、アカデミアに残ること自体が目標ではなく、今の研究テーマに近い事ができる環境に身を置きたいと思っていますので、現在のテーマに関連した研究ができるのであれば、民間企業も視野に入れる可能性があります。

【後輩へのメッセージ】

■私たちは今学部生なのですが、学部生の頃を振り返って、何かアドバイスいただけることはありますか?

自分自身が意識していることでもありますが、何か機会や選択肢を与えられた際に「やってみよう」の精神で挑戦することです。今の自分では能力が不足しているかもしれないと思うことでも、経験することで得られるものがたくさんあります。自分一人ではできないことでも、指導教員や周囲のサポートを得ることで達成できたりします。

加えて、設備投資の重要性を伝えたいです。
例えばPCです。広島大学の学生は入学と同時にPCを購入していると思います。入学当初はピカピカのPCで良いのですが、一番PCを使用する学部4年生や大学院に進むころは結構使用年数もかさみ、十分に機能しなくなる場合があります。
私自身、博士課程前期の時にPCを買い替えたのですが、その時、PCのスペックをあまり考えずに学部で使用したものと同等のものを購入してしまったので、大学院での研究に用いるにはスペックが足りず、別のPCを買い直すことになりました。PCに限らず、勉学や研究に用いる物は、用途をよく考えて、快適に使用できるかで購入することをお勧めします。

また、英語の勉強を頑張っておくことをお勧めします。特に、リスニングやスピーキングです。英語のリーディングは、日々英語論文を読む中で慣れていきますが、リスニングやスピーキングはリーディングに比べて圧倒的に行う機会が少なく、自主的に行わないとできるようにならないと思うので、留学なり、オンライン英会話なりで練習する機会を作って身に付けるといいと思います。

■最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!

研究は、トライ&エラーの繰り返しです。全てが上手くいくわけではありませんし、博士課程後期では3年間で博士論文をまとめなければならないという意味で、大変ではあります。

しかし、自分の好きな研究ができ、周りにも研究が大好きな人がいて、交流し切磋琢磨できる環境なので、とても充実した研究生活ができます。ぜひ楽しみにして、力を蓄えて来ていただければと思います。

【取材者感想】

「最先端の研究内容をわかりやすく、かみ砕いてお話いただき、素人ながらとても興味深かったです。自身の研究だけでなく、他大学とも積極的に共同研究などに参加される清末さんからは、研究に対する強い情熱を生で感じました。今後も、様々な場面でのご活躍を応援しております。」(工学部第三類4年・松原正真さん)

「まず、今回お忙しい中時間を割いてくださった清末さん本当にありがとうございました。まだ私自身1年ということもあってなかなか博士課程後期に進学されている学生さんとお話しする機会がないので非常に貴重な体験をさせていただくことが出来ました。今回お話を伺わせていただいたことで少し博士課程後期の学生さん方のイメージをつかむことが出来ました。また同時に博士課程後期まで進む人が少ない中、強い意志を持ってここまで来られた姿がかっこいいなと感じました。初めてのインタビューということもあり、拙い部分もあったと思いますが、優しく対応してくださりありがとうございました。」(教育学部第一類1年・実石夏子さん)

左から実石さん、清末さん、松原さん