取材日:2022年12月20日
先進理工系科学研究科の山名啓太さんにお話を伺いました。
山名さんは、令和3年10月に広島大学の先進理工系科学研究科博士課程後期に進学し、リサーチフェローシップ(マテリアル分野)に採択されています。また、令和4年度からは日本学術振興会特別研究員にも採択されています。
今回は、山名さんに、博士課程後期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)
私は「中性子捕捉療法(BNCT)」と呼ばれるがん治療法の治療薬を開発しています。
この治療法は、体内にホウ素を注入し、中性子線を照射することで核反応を起こしがん細胞を死滅させるものです。体内にはホウ素が存在しないため、薬剤の投与によってホウ素を体内に蓄積させる必要があります。このとき、体内の腫瘍組織のみにホウ素を届けることができれば、副作用のない治療を行うことができます。
既に、この治療法は臨床で用いられていますが、ホウ素化合物が、がん細胞に蓄積し難いなどの課題があります。私の研究では、この課題を解決するために粒子径のそろったナノ粒子のホウ素化合物を利用することでがん細胞への効果的なホウ素蓄積が期待できます。
具体的には水溶性の天然多糖に水に不溶なホウ素化合物を部分的にくっつけた修飾多糖を使用します。この多糖は、水中で水に溶けない部分が糊のように働くため、多糖が折りたたまれ、また多糖同士がくっつくことによって粒子を形成します。実際に合成したナノ微粒子を、がんを持ったマウスに投与し、患部に中性子線を照射したところ、がん細胞の縮小が確認でき、その効果は臨床薬を上回りました。
現在の指導教官に出会ったことがきっかけです。研究室配属直後の学部4年生の頃は、まさか自分ががん治療の研究を行うなんて考えもしていませんでした。しかし、現在の指導教官に出会いこのテーマを勧めていただきました。博士課程後期に進学した今でも、この研究を行っています。
はい、このテーマとは別に、先生に協力してもらいながらですが、自分で発見した研究テーマも行っています。このテーマでは、カルボランと呼ばれる疎水性の化合物を用います。このカルボランの置換基を少しだけ変化させることで、水中で自己集合させたときに、さまざまな形態(棒状や風車の様な形態)のナノ・マイクロ構造体が形成することを見出しました。このナノ・マイクロ構造体と細胞との相互作用を調べることで、薬剤の形状が細胞との相互作用に与える影響についての知見が得られると考えています。そして、このテーマの研究結果を学会で発表して、小さい学会ではありましたが賞をいただけたので、自分の考え・発想が認めてもらえたということが非常にうれしかったです。
自分で作りだした化合物を生体に応用していけるのが面白いなと思っています。期待した反応が出なかったら、化合物をカスタムし直して、また実験することで検証していくプロセスが楽しいと感じています。
研究室にはコアタイムがあり、朝10時開始です。帰宅時間は特に指定されていませんが、私は毎日だいたい20時頃に帰宅します。研究室では、自分の研究分野に近い論文を読んだり、実験などをして過ごしています。その他に、研究室の後輩の相談を受けたり、ディスカッションを行うなどのサポートも行っています。
そういう時はだいたい疲れが溜まっているときだと思うので、休憩や睡眠をとるようにしています。あとは、新しい面白い研究テーマがないかなと考えてみたり、普段は読まないような自分と少し離れた分野の論文を読んでみることで、気分転換するようにしています。他分野の論文の内容について完全に理解することは難しいのですが、自分の研究に活かせるようなアイディアが得られないかなと思いながら読んでいます。
また、モチベーションが上がるまで待つのではなく、まずは実際に手を動かして意識的に活動するようにしています。そうすると自然にモチベーションが上がっていくことが多いです。
うーん、自分のことをタフだと思ったことはないですけど(笑)
研究をやらないといけないと気負うのではなく、気づけば自然に取り組んでいるというくらいのスタンスなので、そんなに苦労なく取り組めているんだと思います。研究室の後輩たちも真面目な人たちばかりなので、しっかり研究に向き合うことが当たり前という環境にあることも大きいかもしれないですね。
私は、他の博士課程後期に進まれる方に比べると進学を決めた時期が遅く、人並みに就活をしていました。しかし、これまでの研究の成果を思い返してみた時に、自分の研究を別の誰かに託してしまうことが嫌だという気持ちが強くなり、自分の研究を自分で完成させたいと思ったことが博士課程後期進学のきっかけです。
早期修了するためには論文を1報出していることが必要なんですが、私の場合は学部4年次に論文を出せていたので、要件をクリアすることができました。ただ、私の場合は博士課程後期に進学することを決めたのが遅かったことから、急ピッチで修士論文を仕上げないといけないのが大変でしたね。
実は私の同期は全員早期修了しているんです。ただ、先輩で早期修了したという話はあまり聞かないので、これは結構珍しいことなんじゃないかと思います。
早期修了のメリットは、分かりやすいところで言うと、学費が少なくて済むことがありますね。 一方で、博士課程後期を秋に修了することになりますが、一般的には企業への就職のタイミングは4月なので、その半年間のギャップをどう埋めるかということは考えないといけないと思います。ただ、私の場合は、幸い日本学術振興会特別研究員に採用いただけたので、修了してからの半年間をポスドクという形で、無職にならずに半年間を過ごすことができます。
一番不安に感じていたことは、博士号取得後のキャリアです。私の周りには、博士号を取得した人がほとんどおらず、研究室内に同期もいません。そのため、博士号取得後のキャリアが不透明です。将来アカデミアに残って成果に追われ、かつ任期も存在するキャリアに進むのか、企業に就職するのか、今もまだ決めていません。
私は令和3年10月に博士課程後期に進学し、リサーチフェローシップの支援を受けました。
その後、令和4年4月より日本学術振興会特別研究員DC1にも採用いただいたため、4月からは日本学術振興会からの支援へと移行しました。こうした支援を受けられたおかげで、金銭面で研究に不安を感じることが少なくなり、とても助かっています。
フェローシップは給料というわけではありませんが、やはりお金をいただいて研究をしていることを考えると身が引き締まりましたね。ただ、なるべく気負うことなく、それでいて真面目に日々研究に取り組むようにしています。また、こうした支援を受ける前は、奨学金を借りながら、TAや学外でのアルバイトをして生活していましたが、こうした支援のおかげで、現在はより研究に専念できる環境に身を置くことができています。
第一著者として書いた論文が3本、共著として書いたものが5本、学会での発表については5回ほどありました。私は今の研究室で唯一の博士課程後期の学生ですので、経験が長い分だけ後輩たちよりもできることが多くあるので、その分教員の研究に参加できる機会も多くなり、共著の数が多くなっています。
アカデミアの道に進むか、企業に就職するかは未定ですが、今のところは企業への就職を念頭に考えています。博士課程後期修了後も今の研究と近いことが出来れば嬉しいとは思っていますが、思いどおりにいくとは限りませんので、就職先がどこであろうと、行った先で自立した研究者としてしっかり活躍できる人材になれるように努力しています。専門分野にこだわらず視野を広く持ち、様々な経験、情報を得たうえで自身の納得のいくキャリアプランを設定していくつもりです。
これは私のイメージですが、アカデミアでは自分が中心となって物事を進めていけるので、自分の理想とする研究を追求できる点が魅力だと感じています。その一方で、資金調達なども自分で進めないといけないのは大変そうだなと感じています。また、アカデミアのポストが少ない点はやはり厳しいと感じています。博士課程後期修了後にアカデミアに残ったとしても基本的には任期がありますし、そこで十分な成果が出せないと次のポストに繋がらない可能性があるので、そういった将来の見通しがつかない点は不安に感じています。
企業に就職した場合、グループで研究を進めることになると思いますので、研究室では出来ないようなスケールの大きい研究が出来る点が魅力だと思います。その一方で、自分の意志だけで研究の方向性を変えるといった融通はきかないのだろうなと思っています。
今はまだ始めていません。私は修士課程を早期修了した都合上、秋に卒業することになるので、就職活動をする時期が博士論文を書く時期と被るだろうと予想しています。ですので、この先の就職活動にきちんと取り組めるよう、今は博士論文を書くのに必要なデータを集めて博士論文の執筆の準備を進めているところです。
英語は学部生のうちにもっと勉強しておけばよかったと思っています。特にスピーキングですね。今となっては忙しくてなかなか勉強する時間が取れないですし、英会話の講座を受けようとすると多くのお金がかかってしまうので、もう少し学部生の頃に頑張っておけばよかったと思います。
私自身、進学前は、博士課程後期にはすごく研究熱心な人ばかりがいるようなイメージを持っていましたが、実際はそんなことはありませんでした。自分もどちらかというとそういう性格でもないのですが、充実した毎日を送ることができているので、あまり不安に思いすぎる必要はないと思います。私にとって博士課程後期に進学した選択が正しかったどうかは時間が経たないと分かりませんが、今のところ後悔はしていないですし、お金の面ではフェローシップ制度をはじめ、日本学術振興会特別研究員など様々な支援の受け皿が充実してきているので、博士課程後期に行きたいと思う気持ちがあるなら、前向きに考えてみてもよいと思います。
「今回は、僕と同じ応用化学プログラムの先輩である山名さんでした!素人の僕にでもわかりやすく、かみ砕いて研究内容をお話しいただき非常に興味深かったです。取材中には、自身の研究に対する情熱をひしひしと感じられ、やはり博士号取得を目指す人はひと味違うのだなと思いました。今後も、様々な場面でのご活躍を応援しております。」(工学部第三類4年・松原正真さん)
「山名さんが採用されているDC1は採用率が20%前後の狭き門とのことで、お話を聞いていて穏やかな方という印象を持っていましたが、研究に対する思いは並々ならぬものがあるのだと感じました。今後も益々のご活躍をお祈りいたします。 」(工学部第一類1年 川田敦士さん)