取材日:2022年12月5日
先進理工系科学研究科の李致峰さんにお話を伺いました。
李さんは、令和3年10月に広島大学の先進理工系科学研究科に入学され、リサーチフェロー(情報・AI分野)に採択されています。
今回は、李さんに、博士課程後期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。
データ駆動型制御を内包するサイバー・フィジカル・システム(CPS)の構築に関する研究を行っています。CPSとは、私たちが現実世界で実現することが難しいような問題をAIなどの仮想空間に解決してもらうというものです。車の運転を例にすると、まず前提として、私たちは車を運転する上で入力(アクセル)と出力(スピード)が一定であり、スピードが安定することが好ましいです。これらが一定でないと運転手にとって負担になるからです。しかし、実際に車を運転する時には道路状況や天候などの環境条件に影響を受けてしまいます。坂道を登る時に、平坦な道を走る時と同じ運転をするとスピードが出ませんよね。そこで車の中にAIを用いた速度制御システムを組み込むことで、どんな環境下でも入力に対して一定の出力を可能にし、快適な運転を実現させようということです。
そのようなシステムの制御方法は多岐にわたるのですが、私はその中でもデータ駆動型制御という制御方法に着目しています。この制御方法は、莫大なデータベースにある過去の情報から、現在の情報と類似するものを検索し、それらを基にしてAIが解決策を導くというものなのですが、莫大なデータを必要とするためにデータ容量が大きくなってしまうというデメリットを抱えています。私はこの課題を解決したいと思い、この研究を始めました。
そうですね、近年では、情報社会(Society 4.0)に続き、仮想空間(サイバー空間)と現実世界(フィジカル空間)を高度に融合させるような「超スマート社会」、「Society 5.0」に関する研究が盛んに研究されています。データの収集だけではなく、フィジカル空間では実現困難なことをサイバー空間に任せて、さらに有益な解析をフィードバックすることは、「Society 5.0」の重要な課題の一つです。
研究への向き不向きというよりは、研究に対して興味を持つことと努力することが大切だと思います。やはり興味を持たないことには何も出来ないですし、また、苦手なことがあってもそれを克服するために努力し続けることが大学の研究では必要になります。たとえ数学が苦手だとしても、指導教員に積極的に質問をして解決しようと行動することが大事なので、その大元となる興味を持つことが大事だと思います。
自分の研究について同じ研究室の友人と議論を深めるときが楽しいと感じます。私の研究室ではほとんどの人が私と同じデータ駆動型制御について研究していますが、人によって考え方も解決へのアプローチも様々なので、他の人がどういったアプローチで研究を進めているのか、また私の研究していることについての意見を聞くのは面白いですね。正直、一人で研究をしていて思うように進まなかったり、辛いと思ったりすることはよくあります。ですが、私は悩んだり楽しんだりしながらもどんどん研究を進めていくことが大事だと感じているので、こうして苦労する事も研究の魅力の一つだなと思います。
私は学部生の頃は中国の大学にいたのですが、卒業直前に自分の勉強不足を実感することが多くなりました。そして色々と考えた後、自分自身を高めるために留学することにしました。留学先として日本を選んだ理由は、同じアジアの国として、箸を使うことなど共通している文化がたくさんあり、親近感を持っていたことと、日本が機械の分野で先進的な国だと感じていたからです。日本に来たばかりの頃は、日本語で話すことは疎か、文章も読めませんでしたが、福岡で1年半ほど日本語を勉強する中でだんだんと話せるようになり、広島大学に研究生としてやってきて、現在まで研究を続けています。
最初は単に博士号を取得したいとだけ思っていたので、受け入れてくれる大学を色々探していたのですが、幸運な事にこの研究室の山本透先生に面接していただく機会を得て、その結果、広島大学の研究生として受け入れてもらいました。そして1年半ほど研究生として勉強をして、大学院入試を受けてこの研究室に入りました。学部生の頃は機械系を専門としていたため、大学院では分野が変わって苦労しましたが、研究を続けるうちにだんだん興味が湧いてきて、もっと深く研究をしたいと思うようになりました。
そうなんです。そのため足りない部分が他の人より多く、ゼミの後に積極的に先生に質問したり、隙間時間に知識を詰めていく努力をしてきました。
平日はほとんど研究室の部屋にいて、朝から夜まで研究をしています。目標としている学会発表などに合わせて、指導教員と相談して、研究の計画を立てています。私の場合は1ヶ月単位で目標を定めて計画を立てているので、計画の進捗状況によって、17時頃に帰宅できる日もあれば、23時頃まで研究を続けないといけない忙しい日もあります。
留学生の友人たちと食事に行ったり、彼らの家で遊んだりしています。私のいる研究室には5人留学生がいます。
また、私のいる研究室では1年に2回ほど研究室内の学生で協力して課題をこなす行事があるので、日本人の学生とも交流する機会がありますね。一人でいる時は家でテレビを見たりして過ごすことが多いです。
指導教員の先生に生活に関する相談をしたことがきっかけでこの制度を知りました。リサーチフェローに採択されるためには、書類審査と面接審査のハードルをクリアする必要があるので、無事に採択されたときはとても嬉しかったです。中国に住んでいる家族に報告すると、とても驚いていましたし、喜んでくれました。
生活費が十分に賄えて研究に集中できるので、現在のリサーチフェローシップにとても満足しています。これだけの支援を受けているからには、しっかりと研究成果を出していきたいと感じています。また、博士課程後期の留学生への支援の一環として開講されている日本語教室にもお世話になっています。
はい、博士課程後期の留学生向けに、週2回、1回2時間ほどの日本語教室が開講されているので、できるだけ出席するようにしています。日常生活の何気ない場面で使う言葉やその使い方など、私の知らないことはまだまだたくさんあるので、毎回勉強になっています。それに日本語教室には、他の研究室の留学生の方もいるので、一緒に交流することで日本語だけでなく英語の勉強にもなります。講師の先生も気軽に話しやすい方なので、わからないことや気になったことを何でも相談できます。
将来は、大学教員として研究を続けていくことを希望しています。学術的研究を続けたいという気持ちが強いことと、他のメンバーと切磋琢磨しながら一つの目標に向かって研究していくことがとても楽しく、「大学」という場での研究を続けたいと思っています。しかし、まだ博士課程後期1年目で分からない部分も多いので、今後の時勢なども考慮しながら、進路をしっかり考えていきたいです。
博士課程後期に進んで研究をしていると、しっかり研究成果を出さなければならないことや、同年代の人たちが仕事や結婚をしていることに焦りを感じる時もありますが、そのプレッシャーが研究のモチベーションにもなっています。なにより、先生や学生と研究について相談したり議論したりする時間はとても楽しいです!
広島大学は、面白い研究ができる環境があり、親身にサポートしてくれる優しい先生方がたくさんいますので、日本人だけでなく留学生にもぜひ進学をおすすめしたいです。
博士課程後期を目指す学生の皆さん、自分を成長させるために頑張ってください!
「取材に際して、『日本語が上手な方なので通訳は必要ない』という話を伺って少し不安に思っていましたが、実際にお会いすると、とても流暢に日本語を話されていて驚きました。取材中にご自身の事を謙遜される場面が何度かありましたが、日本語をとても上手に話される様子や研究に対する姿勢などから、大変な努力をされてきた方なのだと感じました。今後も益々のご活躍をお祈りしています。」(工学部第一類1年・川田敦士さん)
「現在の研究内容や大学生活について聞く中で、研究が好きという気持ちがよく伝わってきました。外国語で研究内容を学び伝えることは本当に難しいと思いますが、日本語教室に通ったり、空き時間に先生に質問したりするなどの努力を重ねているというお話を聞き、慣れない環境であっても積極的に学びに行かなければならないなと気づかされました。今後の研究生活を応援しています。」(総合科学部総合科学科4年・Sさん) ※本人の希望により匿名にしています。